Inside BuildIt

株式会社ビルディットのデザイナー・エンジニアによるブログです

エンジニア、あるいはビジネスパーソンとして価値観を育てるということ

代表の tmtysk です。最初は一人エンジニア会社として立ち上げたビルディットも、いまではエンジニア, デザイナーやCS, 広報職, 業務委託のメンバーを含めて15名程度が稼働する企業となりました。

チームを前に進めていくということは、チームに関わるメンバーそれぞれの能力を高めていくということでもありますが、さまざまある職種において、職業人あるいはプロフェッショナルとして磨くべき、あるいは共通して学ぶべき事項はなにかと問われると、現在の私は迷わず「価値観」であると答えると思います。「マインド」と言い換えても良いかもしれません。

「価値観教育」「マインド教育」と聞くと、「マインドコントロール」?「宗教」?そんな捉え方がアタマをよぎり、不信感・警戒感を抱く人もいるかも知れません。ですが、言い方を変えて「技術者倫理」という表現ではどんな印象になりますでしょうか。あるいは、Googleはかつて「Don't be evil.」という行動規範を掲げ、現在は「Do the right thing.」という規範を示していますが「the right thing.」はどのような拠り所でもって判断されるのでしょうか。そこには「価値観」が存在するのではないでしょうか。

ところで、価値観を学ぶとは「何が正しい」「何が正しくない」を決定づけることに限りません。さまざま起こりうるストーリーから、「何が大切なことなのか」「我々は何を大切にしたいのか」そういったことについて意見を交わし、チームとして、大切な価値観の目線を合わせていくことこそが「価値観を学ぶ」ということなのだと思います。

私たちは、小学校で「道徳」を学びますが、これも価値観教育だと思います。私たちは既に、価値観を学ぶということを学校や親子関係・家族関係、そして社会生活を通じてやってきているのです。

多様な価値観や考え方が入り交じり、社会的包摂という言葉もよく耳にするようになった今日。この記事では、そのようななかにあって、エンジニア、あるいは職業人として、なぜ価値観を学ぶこと・学び続けることが大切なのか、ということについて綴ってみたいと思います。

価値観が、仕事を意味づけ、立ち返る場所になる

既に述べたように、価値観というのは、言い換えれば「理念」でもあり、「大切にしている信条・哲学・考え方」でもあります。価値観があるからこそ、仕事に対して、「その価値観にどれだけ準じているか」という尺度、言い換えればモノサシを定義できるのです。

たとえば、「私は、目の前で発生する売上を追い続けるのではなく、ユーザーの満足度を追求しよう」という価値観を置くことで、「あの課題を解決するよりも、この課題を解決する方がユーザーの満足度向上に寄与するので、ここではこちらの課題解決を優先しよう」と言ったように、仕事上発生するさまざまな判断の拠り所となります。

「世の中の誰も体験していないような新しい価値を創り出すことが大切だ」という価値観のもとで仕事をしていたら、必然的に新しい技術に対する感度も高まり、「どれだけ新しい技術に触れているか」という行動が評価されるようになっていきますし、「発信が大切だ」という価値観の職場であれば、ブログを書いたり、社外の勉強会で登壇したりという行動も増えていくのではないでしょうか。

このように、価値観は、仕事の方向性を定める尺度になり、意味づけの尺度にもなります。また、さまざまな判断をするために立ち返る場所にもなると言って良いでしょう。

エンジニアや、これからエンジニアを目指す方にとって、今日のような、多くの技術が生まれ、また、学習環境の整備が進む社会は、「知的好奇心を満たしたい」という欲求の観点にのみ立てば幸せな環境と見ることはできます。ですが、グローバルな競争環境、仕事のAIへの代替が進んでいる今日においては、「どんな価値観に立脚して仕事をするのか」を考えることは、結果として個人の仕事の幅と深さを決めることに繋がっていくと、私は考えています。

価値観を磨くことが、利他的行動の原点となり、結果として強固なアイデンティティとなる

ところで、自分個人の価値観を言葉にしてみることはあるでしょうか。そもそも、どうやって、自分の価値観を見つければよいのでしょう。

自分の大切にしている価値観を発見するときの簡単なワークとして、「たくさんの言葉に触れてみて、そこから自分に合いそうなものを探す」というものがあります。一例として、一般社団法人コア・バリュー経営協会のホームページでは「コア・バリュー(価値観)ワード・リスト」というものを紹介していますので、こういった単語リストの中から、自分に合いそうなものを探してみるところから始めてみると良いでしょう。

幾つも選びたくなってしまうと思いますが、まずは3つほどに絞り込んでみます。絞り込んでいく際のポイントは、「なぜ、それを選んだのか」「それを選ぶ背景にある、自分の過去の出来事があるとすれば、それは何か」「何のために、誰のために、それが大事だと思うのか」と言ったように、自分の内側だけでなく、外側にも目を向けてみることが大切です。なぜならば、自分の内側だけに目を向けていると「『ワクワク』が大事。なぜなら、自分はワクワクしたいから」などと、堂々巡りになり、深掘りが進まないことが多いためです。

価値観のWhyを考えたときに、「大切な誰かのために、これを大切にしたい」といった想いを見つけ、それを深掘りしていくと、その価値観はどんどん強固なものとなります。一概には言えないところもありますが、往々にして、自分だけのための価値観は、自分次第でかんたんに諦める・曲げることができてしまいます。

だからこそ、両親・パートナー・家族・恩師・上司や同僚・部下・その他お世話になった人のことを思い浮かべながら、価値観を磨いてみてください。今のあなたが居られるのは、あなた一人だけの努力の結果ではないはずです。他者のためのモチベーションは、自分のためのモチベーションよりも強くなり、「こんなもんで良いか」を超えていくことに繋がります。ぜひ、「大切な誰か・何かのために」という観点で、大切な価値観を見つけ、磨いてみましょう。強固な価値観は、あなたが仕事を進める上での、本当に頼りになる土台になってくれるはずです。

一人で達成できないことをチームで達成するために、価値観を合わせる

価値観を磨くことの本当の価値は、チームでその価値観を共有するときに発揮されます。価値観が共有されたチームで見られる好ましい行動変容としては、以下のようなことが挙げられます。

  • メンバーが自信を持って発言・行動するようになる
  • メンバーが自発的に動き、スピーディに適切な判断をするようになる

ハーバード・ビジネス・レビュー2023年4月号の特集記事では、「価値観を合わせること」を「バリュー・アラインメント」という言葉で紹介し、米国のニューヨーク・プレスビテリアン病院(NYP)の事例を紹介しています。コロナ禍のパンデミックで大多数の病院が影響を受ける中、NYP全スタッフにまで浸透した「敬意」「品質」「誠実さ」「チームワーク」の価値観の実践が、現場での他の大多数の病院をしのぐ前線ぶりを示したというストーリーです。

同記事では、組織と個人の価値観の一致を図っていくための具体的なステップについても紹介されているので、ご興味の方は参考にされてみてください。

ビルディットでの実際

価値観を磨くことの意義や、その手法について幾つかの例を挙げながら解説してきました。ここで、弊社で、メンバーの価値観を育むために、どのような仕組みをとっているかということを一部だけ共有しておこうと思います。

ビルディットは、創業時、下記のような絵を描いていました。「志を立てる」という表現があり、創業時から価値観を磨くことについての意識は薄くあったのですが、実態としては毎月1on1をやっているに留まっていました。

現在、私たちは「挑戦」「誠実」「成長」という言葉を「バリュー(価値観)」として定義しています。そして、これらの言葉を「ビルディットは、お客さまと社会、そしてともに働くメンバーに対し、以下のような価値を提供していくことをお約束します」という文章とともにホームページに掲載し、入社時に読み上げてもらうことや、その読み上げを他のメンバーが見守り、承認するというプロセスをとっています。

また、一昨年や今年に実施した全社研修では、会社代表である私個人の価値観を共有しつつ、全メンバーが一職業人として大切にしている価値観に向き合ってもらうワークやプレゼンテーションを通じて、バリュー・アラインメントを図りました。会社トップの価値観、メンバーお互いの価値観を開示・理解しあい、また、承認しあいながら仕事に取り組めるようにすることは、結果として安心・安全で、自律性・生産性が高い仕事環境づくりに繋がっていると考えています。

この他、日常業務では、バリューを実践することが奨励されています。毎朝の朝礼では、持ち回りでバリュー実践行動のシェアストーリーをプレゼンしています。自分たちが共感して働ける価値観をいつも確認できるようにし、また、その行動実践を全員で共有・承認していくことで、自分たちの価値観と、仕事で発揮する価値観をしっかり紐づけていきます。

弊社でのバリューマネジメントに関しては、この他にも幾つかの取り組みがあるのですが、代表的なものをピックアップして共有いたしました。

さいごに

本記事では、価値観を学び、鍛えることと、その環境づくりの実際について述べてきました。

正直、書き始めてから「なかなか言語化しにくいテーマにトライしてしまった」と思いましたが、私にとって、この発信(という行為も、この内容)もとても大事なことなので、書ききったところで迷わず公開しようと思います。

冒頭にも述べたように、こういった、価値観に対する切り込み・発信は「宗教っぽい」と警戒される懸念もあります。ですが、「宗教臭い」という表現を組織内に発信するメンバーは、自身の価値観が曖昧なために「価値観という領域」に触れられることに対する不安を感じているか、あるいは単にその組織の価値観に共感できていない、もしくはチームに帰属する/チームを強めるということの意味が十分に理解できていないということだと思います。

強い組織づくりのヒントは「宗教」にある、という論も存在します。本当に向き合うべき目的は、組織をつくることそのものではなく、その先の、その組織で成し遂げていくコトにある。その目的が、社会的に意義のあるもの(大義)なのであれば、また、それを成し遂げるために、本当に強いチームを求めるのであれば、外野から多少何を言われようとも、リーダーは価値観教育を重要視すべきだ、というのが私の考えです。また、チームで大きな成果をつくっていくためにも、チームに所属する個々人も、敬遠せずに自分自身の価値観に向き合い、育てていくべきだと考えています。

ここまでお読みいただいた方が「価値観、なるほどね」と、ご自身やご自身の組織について想いを馳せ始めていただけていることを願い、筆を置きたいと思います。ありがとうございました。